パーキンソン病は、運動に関する症状、特に震えやこわばりでよく知られているかもしれない。しかし、この病気は発声を妨げることでも知られており、パーキンソン病患者の声は柔らかい単調なものになる。これらの症状は、発症のかなり早い時期、つまり運動関連の症状より数十年も前に現れることが研究により示唆されている。アリゾナ大学の神経科学者の新しい研究により、パーキンソン病とよく関連する特定の遺伝子が、声に関する問題の背後にある可能性が示唆された。この発見は、パーキンソン病患者の早期診断と治療につながる可能性がある。
この研究は、理学部の神経科学および言語聴覚科学の助教授であるジュリー・E・ミラー博士の研究室で行われた。ミラー博士は、神経科学部門と神経科学大学院の学際的プログラムを兼任しており、アリゾナ大学BIO5研究所のメンバーでもある。
この研究は、2022年5月4日(水)に科学雑誌PLOS ONEに掲載された。ミラー博士の研究室の元博士課程学生で、現在ジョンズ・ホプキンス大学の博士研究員であるセザール・A・メディナ氏が論文の主執筆者だ。また、アリゾナ大学の元学部生で、間もなく医学部-ツーソン校に入学予定のエディ・バルガス氏と、神経科学科の研究員であるステファニー・マンガー氏が研究に参加した。
このオープンアクセスのPLOS One論文は「歌専用の前脳経路におけるαシヌクレインの過剰発現によるパーキンソン病モデルにおける発声変化(Vocal Changes in a Zebra Finch Model of Parkinson's Disease Characterized by Alpha-Synuclein Overexpression in the Song-Dedicated Anterior Forebrain Pathway)」と題されている。

ユニークで理想的なヒトの発声研究モデル

研究チームは、発声の変化とパーキンソン病関連遺伝子(αシヌクレイン)との相関を調べるために、オーストラリア原産の鳴禽類であるキンカチョウ(ゼブラフィンチ)に注目した。
この鳥は、いくつかの理由から、ヒトの音声や発声経路の理想的なモデルであるとメディナ博士は述べている。キンカチョウの幼鳥は、父親のような年長の鳥から歌を習う。これは、赤ん坊が親の話を聞いて言葉を覚えるのと同じである。キンカチョウの脳の中で音声や言語を扱う部分は、ヒトの脳の対応部分と非常によく似た組織になっている。

「行動、解剖学、遺伝学にわたるこれらの類似性から、キンカチョウをヒトの音声や会話のモデルとして用いることができる」とメディナ博士は述べている。

αシヌクレイン が鳥類の発声にどのような影響を及ぼすかを調べるため、研究者らはまず、鳥類の歌声を基準値として録音した。次に、この遺伝子を一部の鳥に導入し、他の鳥には導入しないようにして、結果を比較した。遺伝子を導入した直後と、1カ月後、2カ月後、3カ月後に、すべての鳥の鳴き声を再び録音した。
研究者らはコンピューターソフトを用いて、歌の音響的特徴を経時的に分析・比較し、歌のピッチ、振幅、持続時間を調べ、鳥の発声がいつ、どのように変化したかを明らかにした。
その結果、αシヌクレインが鳴き声に影響を与えることが判明した。遺伝子を導入した鳥らは、2カ月後には鳴き声が小さくなり、遺伝子を導入してから3カ月後の歌のセッションの開始時には鳴き声が小さくなっていたのだ。また、発声はより柔らかく、短くなり、人間の病気に見られるのと同様の所見が見られた。

早期診断・早期治療に向けて新たな一歩を踏み出した

この研究者らは、発声への影響が脳内の変化と関連しているかどうかを調べるため、脳の領域Xと呼ばれる部分に注目した。その結果、領域Xではαシヌクレイン・タンパク質のレベルが高いことがわかり、この遺伝子が実際に脳内の変化を引き起こし、発声を変化させたことが立証されたと、メディナ博士は述べた。この関連性は、これまでのパーキンソン病の研究でも予測されていたが、決定的なものではなかったと、メディナ博士は付け加えた。

次のステップは、この研究成果をヒトのデータに適用する方法を見つけることである。そうすれば、より優れたパーキンソン病の診断と治療につながる答えが得られるかもしれない。
ミラー研究所の長期的な目標は、他の研究者や民間企業と提携して、αシヌクレインやその他のパーキンソン病関連遺伝子を標的とする薬剤を開発することだという。
そうすれば、「患者のQOLに有害な支障をきたす前に、パーキンソン病の進行を食い止めることができる」とメディナ博士は述べている。

[News Release] [PLOS One article]

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