太陽系形成の手がかり:遠方の星間雲でパイレンの豊富な存在を発見
MITの研究者らを中心とするチームは、遠方の星間雲に多量のパイレン(pyrene)が存在することを発見しました。パイレンは、多環芳香族炭化水素(PAH)と呼ばれる炭素を多く含む分子の一種です。この星間雲は、かつて私たちの太陽系を構成した塵とガスの集合体に似ており、この発見は、パイレンが太陽系内の炭素の重要な起源である可能性を示唆しています。この仮説は、近地球小惑星「リュウグウ」から回収されたサンプルにも大量のパイレンが含まれていたという最近の発見によっても支持されています。
星間分子の新たな発見
この研究は、MIT化学科の助教授ブレット・マクガイア博士(Brett McGuire, PhD)を中心に行われました。同氏は、「星や惑星の形成における大きな疑問は、初期の分子雲からどれだけの化学物質が引き継がれ、それが太陽系の基本的な構成要素を形成するかということです。私たちは始まりと終わりを比較し、同じものが見えている。それは、初期の分子雲の物質が氷、塵、岩石へと引き継がれた強力な証拠です」と述べています。
パイレンの検出:科学的挑戦
パイレンはその対称性のため、従来の星間分子の検出に用いられてきた電波天文学技術では直接検出できません。その代わり、研究者たちはシアン化パイレンという異性体を検出しました。これは、シアン化物が結合することでパイレンの対称性が破壊された分子です。
この分子は、西バージニア州にあるグリーンバンク天文台の100メートル電波望遠鏡(GBT)を使用して、遠方の星間雲TMC-1で発見されました。この発見に関する論文は、2024年10月24日付のScience誌に「Detection of Interstellar 1-Cyanopyrene: A Four-Ring Polycyclic Aromatic Hydrocarbon(星間1-シアノパイレンの検出:四環芳香族炭化水素)」というタイトルで発表されました。
星間空間における炭素の役割
PAHは、炭素原子が融合した環を含む分子で、宇宙に存在する炭素の10〜25%を蓄積していると考えられています。しかし、1980年代に赤外線望遠鏡でPAHの振動モードが検出されて以来、どの種類のPAHが存在するのか特定することは困難でした。
2018年、マクガイア博士のチームは、TMC-1でベンゾニトリル(6炭素環にニトリル基が結合した分子)を発見しました。その後、2021年にはシアノナフタレン(2つの環が融合し、ニトリル基が1つの環に結合した分子)の異性体を特定しました。そして今回、さらに大きな分子であるパイレンの発見へと繋がりました。
パイレンの形成とその起源
地球上では、PAHは化石燃料の燃焼や食品の焦げ跡として一般的に見られます。一方、TMC-1のような約10ケルビンの極低温環境でこれらの分子が形成される可能性は、研究者にとって驚きでした。
リュウグウのサンプルにも多量のパイレンが含まれていたことから、PAHが太陽系を構成する炭素の主要な供給源であるという仮説が強まりました。今回の研究は、TMC-1で検出されたシアン化パイレンが星間空間で全炭素の0.1%を占めることを示しました。この値は、宇宙で数千種類に及ぶ炭素化合物の中では非常に大きな割合を占めるといえます。
マクガイア博士は、「炭素原子の数百個に1つがパイレンとして存在していることは、星間空間における炭素の非常に安定した収束点を示しています」と述べています。
星間雲から太陽系への炭素の継承
星間雲は最終的に星を生み出し、塵やガスが集まって天体を形成します。今回の発見は、太陽系を生み出した星間雲を直接観察することはできないものの、TMC-1のような雲で検出されたパイレンが、私たちの太陽系における炭素の主な供給源である可能性を示しています。
「冷たい分子雲から実際の岩石構造に至るまでの直接的な分子の継承を示す最も強力な証拠です」とマクガイア博士は述べています。



