靴紐の端にあるプラスチックのキャップが、紐がほつれるのを防いでいる様子を思い浮かべてみてください。私たちの細胞の中にも、これと同じ役割を果たす「テロメア」という保護キャップが存在します。もしこのキャップがうまく機能しなくなったら……?ウィスコンシン大学マディソン校(UWマディソン校)による最新の研究で、私たちの染色体の安定性を保つために不可欠な、あるタンパク質の異常が、重篤で時には命に関わる疾患の原因となっている可能性が明らかになりました。2025年10月30日付の学術誌『Science』に掲載されたこの知見は、特定のがんや骨髄疾患に苦しむ患者さんと医師に対し、新たな検査の指標となるタンパク質の変異を提示するものです。
記事のタイトルは、「Human RPA Is an Essential Telomerase Processivity Factor for Maintaining Telomeres(ヒトRPAはテロメア維持に不可欠なテロメラーゼの伸長促進因子である)」です。
私たちの染色体(すべての遺伝情報を保存するタンパク質とDNAの束)は、DNAの繰り返し配列とタンパク質でできた保護キャップである「テロメア」によって分解から守られています。テロメアは加齢とともに自然に短くなりますが、その形成や維持に異常が生じるとDNAが不安定になり、早老症やその他の疾患を引き起こす可能性があります。
UWマディソン校生化学科のシ・ジ・リム(Ci Ji Lim)博士の研究室は、同大学化学科の研究チームと協力し、テロメアの維持を担う酵素「テロメラーゼ」と相互作用するタンパク質の特定に取り組んできました。これらのタンパク質の機能不全こそが、テロメアの短縮によって引き起こされる疾患の原因ではないかと考えたのです。
アメリカ国立衛生研究所(NIH: National Institutes of Health)の支援を受けているシ・ジ・リム博士は、「この研究ラインは、分子プロセスの生化学的な理解にとどまりません。テロメア疾患の臨床的な理解を深めるものです」と述べています。
大学院生のスーラブ・アグラワル(Sourav Agrawal)氏、研究員のシウファ・リン(Xiuhua Lin)氏、そして博士研究員のヴィヴェック・サスビルカール(Vivek Susvirkar)氏を中心とする研究チームは、タンパク質の3次元構造やタンパク質間の相互作用を予測する機械学習ツール「アルファフォールド(AlphaFold)」を活用し、テロメラーゼと相互作用する可能性が高いタンパク質を探索しました。
その結果、複製タンパク質A(RPA: replication protein A)と呼ばれる分子が、テロメラーゼを刺激することでテロメアの維持に不可欠な役割を果たしていることが判明しました。RPAがDNAの複製や修復に関与していることは以前から知られていましたが、ヒトにおいて健康で長いテロメアを維持するために果たしている役割はこれまで確認されていませんでした。チームはアルファフォールドの予測に基づき、ヒトの細胞においてRPAがテロメラーゼを刺激し、テロメアの維持を助けるために必要であることを実験的に検証しました。
シ・ジ・リム博士によれば、この発見は、テロメアの短縮に起因する命に関わる疾患(再生不良性貧血(aplastic anemia)、骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome)、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia)など)を抱える患者さんに、即座に影響を与える可能性があるといいます。
「これまでの知識では説明できなかった、テロメア短縮疾患の患者さんが存在していました」とシ・ジ・リム博士は説明します。「今回の発見で、それらの疾患の一部における根本的な原因が解明されました。それは、RPAがテロメラーゼを刺激できなくなった結果なのです」
シ・ジ・リム博士のチームには現在、世界中の臨床医や科学者から、「自分の患者の疾患も、今回発見されたRPAの新機能を阻害する遺伝子変異の結果ではないか」という問い合わせが寄せられています。
「フランス、イスラエル、オーストラリアなどの同僚から連絡が来ています。彼らはただ、患者のテロメア短縮疾患の原因を突き止め、患者とその家族が『何が起きているのか、なぜなのか』を理解できるようにしたいと願っているのです」とシ・ジ・リム博士は語ります。「生化学的な解析によって、患者の変異がRPAとテロメラーゼの相互作用にどう影響するかをテストし、医師に原因の可能性についての知見を提供することができます」
画像:テロメア(緑)

