ウエストナイルウイルス感染のリスク—自己抗体が重症化の鍵を握る
米国で現在発生中のウエストナイルウイルス(WNV)のアウトブレイクは、46州で880例が報告されています。しかし、この数は氷山の一角に過ぎず、多くの感染者は無症状で知られないまま回復しています。症状が現れるのは感染者の約20%で、そのうち19%が発熱、頭痛、関節痛、発疹、消化器系症状を経験し、1%が脳炎や髄膜炎といった重篤な症状に至ります。この1%の患者では昏睡、けいれん、視力喪失、麻痺、さらには死亡に至る場合もあります。
近年、自己抗体が重症化の原因であることが明らかになり、重症例への新たな理解が進んでいます。ロックフェラー大学のジャン=ローラン・カサノバ博士(Jean-Laurent Casanova, PhD)は、WNV重症例の約40%が「タイプIインターフェロン」に対する自己抗体に関連していることを発見しました。この発見は、WNVのみならず、インフルエンザ肺炎といった他のウイルス感染症にも応用される可能性があります。
自己抗体と免疫反応の破綻
カサノバ博士の研究によれば、自己抗体はタイプIインターフェロンに結合し、その働きを阻害します。本来、これらのインターフェロンはウイルスと戦うために重要なシグナル伝達を担いますが、自己抗体によってその機能が失われると、感染細胞がウイルス増殖を抑える能力が低下します。この結果、WNVや他のウイルスに対して免疫系が十分に対応できず、重症化リスクが高まります。
重症化のリスク層とは?
自己抗体を持つ人は全人口の約1%と推定されていますが、高齢者ではその割合が4%から6%に跳ね上がります。このため、65歳以上の人々は特に重症化リスクが高いとされています。さらに、自己免疫疾患を持つ人々もリスクが高く、これらの人々への血液検査によるスクリーニングの必要性が提言されています。
予防と将来の課題
カサノバ博士は、自己抗体スクリーニングの商業化を進めつつ、WNVのようなウイルス感染症において最も重要なのは予防であると述べています。感染リスクを下げるためには、蚊の活動が活発な場所や時間帯を避け、強力な虫よけを使用することが推奨されます。
一方で、WNVの人用ワクチンが存在しない理由について、カサノバ博士は「アウトブレイクの予測が難しいこと」が一因である可能性を指摘しています。ワクチン試験の実施や効果の検証が困難であるため、実用化が進んでいないのが現状です。
他のウイルス感染症への応用
自己抗体の影響はWNVだけでなく、インフルエンザ肺炎、MERS肺炎、さらにはダニ媒介性脳炎などにも関連していることが示されています。また、東部ウマ脳炎(EEE)や他のウイルス性疾患についても、自己抗体が重症化に関与している可能性があり、今後の研究が期待されています。



