北米では毎年何万人もの人が致死的な細菌感染で亡くなっており、しかも第一線の抗生物質に耐性を持つ病原菌がますます増えている。残念なことに、研究室で細菌を培養するこれまでの方法では、感染源の細菌を同定するまでに何日もかかり、感染を完全に治療する適切な抗生物質を突き止めるまでにはさらに日数がかかるが、その間、治療を止めるわけにはいかない。細菌感染を迅速かつ正確に診断する技術が緊急に必要とされているが、まだそれに応える技術は現れていない。

 

このほど、University of Torontoの研究チームは、迅速にサンプルを処理し、病原菌のパネルと照合分析することができるICチップを開発した。この新技術では、病原菌を数分で同定することができるだけでなく、その作業と並行して他の細菌や薬剤耐性マーカーも探し、病原菌の正確なタイプを迅速に突き止めることができる。この新技術は、2013年6月12日付オンライン版「Nature Communications」に掲載されている。


研究論文首席著者のDr. Shana Kelley (Pharmacy and Biochemistry) は、「抗生物質の使いすぎでますます耐性菌が増えている。しかし、無効な抗生物質や不適当な抗生物質が乱用される原因は、医療現場で患者が感染している病原菌についての情報を迅速かつ正確に得る技術がまだ存在しないことにある」と述べている。その必要を満たすため、この研究チームは、尿路感染症患者のサンプル程度の細菌数を検出できるICチップを開発した。研究論文の第一著者、Chemistry Ph.D. studentのBrian Lamは、「このチップは、サンプル中の細菌のタイプを正確に割り出し、さらにその病原菌が薬剤耐性を持っているかどうかまで判定することができる」と述べている。このチップ開発のカギになったのは、各種バイオマーカーのパネルを書き込むことのできるICを設計することだった。

研究論文のもう一人の筆頭著者、電気・コンピュータ工学のDr. Ted Sargent氏は、「研究チームは、生体試料を浸している液体を『スイッチ』として使う方法を考え出した。この方法で、試料中の各バイオマーカーを順番に個別に調べることができた」と述べている。UCLAのNanoSystems ScienceのKavli ChairとCalifornia NanoSystems InstituteのDirectorを兼任するDr. Paul S. Weissは、「溶液型のICチップは複数の病原体の抗生物質耐性を迅速に判定することができ、生体分子分析の分野で飛躍的な発展になった」と述べている。

トロント所在の臨床検査会社、XagenicのDirector of Business Development、Ihor Boszko氏は、「この診断ICチップ開発は医療現場に大きな変化をもたらすのではないか。この種の、高感度の、酵素を用いない電気化学的検出技術はベッドサイド臨床診断で非常に有用だ。インビトロ臨床検査を多重化することで、臨床的に同じ症状を引き起こす様々なウイルスや細菌を同時に検査する能力を持たせているのは大きいし、高度に多重化した電気化学的検査装置でありながら製造工程も簡単で低コスト化されている。これだけの条件が揃っていれば効果的な診断機器として現場で大きな影響を持つことだろう」と語っている。

画像は一般的なICチップであり、この記事に取り上げられた診断ICチップではない。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください:Solution-Based Circuit Chip Permits Rapid and Multiplexed Pathogen Identification

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