開き、供給し、刻む。これがRice Universityの研究チームが研究対象としているモーター分子の日常的に損傷したタンパク質を食べては吐き出し、無害なペプチドに変換して処分するという単調な暮らしである。その理由ははっきりしている。この「ゴミ箱」がなければ、モーター分子を抱えている大腸菌が死滅してしまうからだ。

 

Rice University研究チームのおかげで、その機序も明らかになってきた。Rice Universityの生物理学チームは、超小型機械、FtsH-AAA六量体ペプチダーゼと呼ばれるプロテアーゼをモデルとして使い、遺伝子データと構造データを合わせた計算を試験した。同チームの目標は、生物学でもっとも大きな謎の一つ、生命の根源である細胞内のタンパク質の調節機構の機序を解明することにある。Rice UniversityのDr. Jose Onuchic、ポスドク研究者のDr. Biman Jana、Dr. Faruck Morcosの生物物理学者チームは、2014年3月7日付のRoyal Society of Chemistryの学術誌「Physical Chemistry Chemical Physics」特別号オンライン版に新研究論文を投稿している。


Rice Universityの生物理学者、Dr. Peter Wolynesと、National Cancer Instituteの研究者で、Tel Aviv University, Sackler School of Medicineの教授を務めるDr. Ruth Nussinovが編集した特別号は、現在のデータの爆発的な増加とますますパワフルになっていくコンピュータの力を合同することで分子生物学の第二の革命を引き寄せようとしていることについて現在的な考えをまとめている。

この研究論文では、Onuchic研究グループがデータを独自の計算技法で処理し、タンパク質が形成した大型分子機械の複雑な動きの解明に初めて成功している。究極的には、Rice UniversityのCenter for Theoretical Biological Physicsが専門的に研究しているがんなどの疾患を治療する薬剤を設計する上で、このような分子機械を理解することが役立つはずである。

Dr. Onuchicは、「X線結晶学や核磁気共鳴法などの立体構造解析テクニックが優れており、小さなタンパク質の機能を突き止める上で非常に役に立っている」と述べている。X線では、常に動いているタンパク質の静止画像しか撮影できない。Dr. Onuchicは、「しかし、機能タンパク質、大きなタンパク複合体や分子機械には複数の配座がある。計算モデルも有用だが、様々な興味深い生物学的な反応が起きる大分子タンパク質の完全な動態を理解するためにはそれだけでは不足で、もっと情報を付け加えなければならない」と述べている。

その情報というのは、直接結合解析 (DCA) と呼ばれ、Dr. Morcos、Dr. Onuchic、University of California, San DiegoやPierre and Marie Curie Universityの同僚研究者らが開発した統計学的なツールを用いて得られたものである。DCAでは、折りたたまれていないタンパク鎖の1個ずつのビーズにあたるアミノ酸がタンパク質の折りたたみ方に影響を与える共進化を調べるため、タンパク質生成のもとになる遺伝子に注目する。各ビーズが持つ固有のエネルギーが鎖独自のエネルギー特性を形づくっており、それによってタンパク鎖が機能状態に折りたたまれる形が決まる。タンパク質は、そのように折りたたまれた後でも永久運動を続けており、数え切れないほどの身体機能の触媒として働いている。さらには、互いに結合してより大きな分子機械を形成し、他の分子をつかみ、細胞内で分子を移動させたり、筋肉収縮を引き起こしたりさせることができる。そのような生体機械の一つにFtsHがある。

これは大腸菌の中の膜結合型分子で、6個のタンパク質コピーで構成され、それが2つの連結した六角形の環を形成している。この分子は正しく折りたたまれなかったタンパク質その他細胞の破片を引き寄せて一つの環の中に引き込み、そうするとその環がカメラのシャッターのように閉じ、タンパク質が閉じ込められる、さらにタンパク質がもう一つの環から出てくる時にはばらばらにされている。

Rice University研究チームは、構造モデルを使った分子シミュレーションと、タンパク質に対応する遺伝子の考えられる結合のDCAによる結果から、Dr. Morcosが、「ゴミがその中に入ると2つの環がぺしゃんこになる」と表現した分子中の「パドリング」メカニズムの仮説を支持する証拠を見つけた。

Dr. Morcosは、「まず環の細孔が閉じてタンパク質を捉え、次に分子が平らにひしゃげる。モーターが平らになると環が開いてペプチドを吐き出し、分子が膨らんで再び同じサイクルが繰り返される」と説明している。DCAで正しい結果を得るコツは、アミノ酸突然変異が、特定の目的に合わせて共進化した残基接触を示していると理解することにある。
Dr. Onuchicは、「DCAで作成したコンタクト・マップから、たとえばFtsHのパドリングのようにこれまで知られていなかったモデルの機能状態間の転移が詳しく把握できる」と述べている。

博士は、「これらのタンパク質の進化樹を見れば、どのアミノ酸が共に変化したかが理解できる。そうすればこの2つはコンタクトがあったと予想できる。DCAに物理学を活用して2個のアミノ酸が直接・間接に作用する時を判断し、その2個のアミノ酸を分離する。その後で、2個のアミノ酸がどのように結合しているかを予測し、確率が高いほど2個のアミノ酸が実際に接触している証拠になる」と述べている。
この何十年かでゲノム全体をスキャンすることが可能になっただけでなく、当たり前のようにおこなわれるようになったことで大量のデータが手に入るようになったことを抜きにしては、DCAはほとんど何もできない。同時に100年という長い歳月の結晶学の発展が構造モデルの向上をもたらしている。

Dr. Morcosは、「1990年代にはすでにモーター・タンパク質に関する数理的フレームワークができており、結晶学的なデータがあったが、2000年代に入るまで十分な量のシーケンスが手に入らなかった。今はそういったすべてのものが揃っている」と述べている。さらに、「研究者が、人間の健康のためにDCAを活用し始めれば、細菌中の必須モーター・タンパク質を理解することが重要になっていくはずだ。私たちにとってもっとも励みになるのは、今や非常に大きなシステムを解き明かすことができるようになったということだ」と述べている。

■原著へのリンクは英語版をご覧ください: Scientists Use Direct Coupling Analysis to Investigate Complex Molecular Machines

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