脊髄損傷による麻痺に新たな光:3Dプリンターと幹細胞で神経回路を再建
一度損傷すると完全な回復は難しいとされる脊髄。この大きな課題に対し、3Dプリンター、幹細胞生物学、そして研究室で培養した組織を組み合わせた画期的なプロセスによって、脊髄損傷からの回復を実証した研究が登場しました。
ミネソタ大学ツインシティーズ校の研究チームが開発したこの新技術は、損傷した神経が再生するための「架け橋」となり、麻痺治療に新たな希望をもたらす可能性があります。この研究は、2025年7月23日に査読付き科学雑誌「Advanced Healthcare Materials」に掲載されました。論文のタイトルは「3D-Printed Scaffolds Promote Enhanced Spinal Organoid Formation for Use in Spinal Cord Injury(3Dプリントされた足場は脊髄損傷で使用するための脊髄オルガノイド形成を促進する)」です。
米国立脊髄損傷統計センターによると、米国では30万人以上が脊髄損傷に苦しんでいますが、損傷によるダメージやまひを完全に元に戻す方法は確立されていません。大きな課題は、神経細胞が死んでしまうこと、そして神経線維が損傷部位を越えて再生できないことにあります。今回の新しい研究は、この問題に正面から取り組むものです。
この方法は、研究室で培養したミニ臓器であるオルガノイドのための、微細なチャネル(流路)を持つユニークな3Dプリントされたフレームワーク、「オルガノイド足場」を作製することから始まります。これらのチャネルには、ヒトの成人幹細胞から作られ、特定の種類の成熟細胞に分裂・分化する能力を持つ「脊髄神経前駆細胞(sNPCs: spinal neural progenitor cells)」が配置されます。
「私たちは、3Dプリントされた足場のチャネルを利用して幹細胞の成長を誘導し、新しい神経線維が望ましい方向に伸びるようにします」と、論文の筆頭著者であり、元ミネソタ大学機械工学博士研究員で現在はインテル社に勤務するグェブム・ハン博士(Guebum Han, PhD)は説明します。「この方法により、脊髄に移植した際に損傷部位を迂回する『中継システム』が作られるのです。」
研究では、研究チームはこれらの足場を、脊髄が完全に切断されたラットに移植しました。移植された細胞は、成功裏にニューロンへと分化し、その神経線維を頭側と尾側の両方向に伸ばし、宿主の既存の神経回路と新たな接続を形成しました。
時間の経過とともに、新しい神経細胞は宿主の脊髄組織にスムーズに統合され、ラットの顕著な機能回復につながりました。
「再生医療は、脊髄損傷研究に新時代をもたらしました」と、ミネソタ大学の脳神経外科教授であるアン・パー(氏Ann Parr)は述べています。「私たちの研究室は、この『ミニ脊髄』が将来的に臨床応用される可能性を探求できることに興奮しています。」
この研究はまだ初期段階にありますが、脊髄損傷を抱える人々にとって新たな希望の道を開くものです。研究チームは、将来の臨床応用に向け、この技術の組み合わせをさらに発展させ、生産規模を拡大していくことを目指しています。
本研究チームには、ハン博士とパー教授に加え、ミネソタ大学機械工学科のヒョンジュン・キム氏(Hyunjun Kim)とマイケル・マカルパイン氏(Michael McAlpine)、同大学脳神経外科のニコラス・S・ラボア氏(Nicolas S. Lavoie)、ナンダデヴィ・パティル氏(Nandadevi Patil)、オリビア・G・コーレンフェルド(Olivia G. Korenfeld)氏、同大学神経科学科のマヌエル・エスゲラ氏(Manuel Esguerra)、そしてバージニア・コモンウェルス大学物理学科のデハ・ジョン氏(Daeha Joung)が参加しています。



