バイオセンサーは、生体分子を利用して特定の物質の存在を検出する装置であり、医療診断、基礎研究、環境モニタリングなど、多岐にわたる用途での可能性を秘めています。その中でも特に「蛍光バイオセンサー」は、ターゲットとなる物質と結合することで蛍光を発するプローブ分子を組み込んでいます。しかし、従来の蛍光バイオセンサーは結合していない分子も蛍光を発するため、信号検出前に洗浄などの手間が必要で、コントラストが低いという課題がありました。
今回、ハーバード大学ワイス研究所、ハーバード医科大学、MIT、英国エジンバラ大学の共同研究チームは、特定のタンパク質やペプチド、小分子を迅速かつ高感度に検出する「結合活性化型蛍光ナノセンサー」を効率的に開発する合成生物学プラットフォームを構築しました。このプラットフォームの鍵となるのは、ターゲット結合小タンパク質(バインダー)に新規の蛍光誘導アミノ酸(FgAAs: fluorogenic amino acids)を組み込む技術です。この技術は遺伝暗号の拡張を可能にし、バインダーをナノセンサーに進化させるための基盤となっています。研究成果は、2024年9月5日付でNature Communicationsに公開されました。
研究チームは、従来のバイオセンサー開発プロセスにおける複雑さを解決するため、化学進化と高スループットスクリーニング技術を組み合わせました。特に注目すべきは、新規の蛍光誘導アミノ酸をバインダータンパク質に組み込むことで、ターゲット結合時のみ蛍光を発するセンサーを開発した点です。この技術により、環境モニタリングや精密医療の分野で即時かつ高感度の検出が可能になります。
「この技術は、細胞の遺伝暗号を拡張して新しい機能を持たせる我々の研究の延長線上にあります。このプラットフォームは、より高性能なバイオセンサーの実現を阻んでいた多くの課題を克服し、医学や環境科学に大きな影響を与える可能性があります」と述べたのは、研究リーダーのジョージ・チャーチ博士(George Church, PhD)です。
応用例と進化
初期の研究では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイクタンパク質を検出するナノセンサーが開発されました。続いて、がん関連分子、細胞内タンパク質追跡用ペプチド、ストレスホルモンなど幅広いターゲットに対応したナノセンサーが作られました。さらに、「指向性進化」を用いた最適化プロセスにより、従来よりも高い結合親和性を持つナノセンサーの開発にも成功しました。
研究チームは、プラットフォームのさらなる改良により、ターゲット分子に対する即時応答性を向上させるだけでなく、製造コストの削減とプロセスの高速化を実現しました。



