細胞内の「物流センター」を解析。香港科技大学が解明したタンパク質輸送の謎

真核細胞(eukaryotic cells)における分泌経路は、細胞機能や生理活動を維持するために不可欠なシステムです。この経路は、タンパク質を細胞内の特定の場所へ正確に輸送したり、細胞外へ分泌したりする役割を担っています。香港科技大学(HKUST)生命科学部門のユーソン・グオ博士(Yusong Guo, PhD)率いる研究チームは、分泌経路において、輸送されるタンパク質(カーゴタンパク質)がどのように認識され、輸送用の「小胞」に積み込まれるのか、その分子メカニズムを広範囲に調査してきました。

チームは今回、疾患に関連する複数のカーゴタンパク質が、分泌経路に沿って小胞にパッケージングされる過程を再現することに成功しました。これは、積み込みの分子メカニズムを詳細に分析するための強力なツールとなります。さらに彼らは、小胞の再構成と電子顕微鏡、そしてプロテオミクス(タンパク質解析)を統合した革新的な解析プラットフォームを開発しました。これにより、小胞のタンパク質組成や形態的特徴を体系的に特定することが可能になりました。この包括的なアプローチは、小胞輸送を仲介する新しいカーゴタンパク質や細胞内因子の発見に有効であることが実証されています。

グオ博士率いる研究チームは、香港理工大学(PolyU)のジョンピン・ヤオ博士(Zhong-Ping Yao)のチームと共同で、この研究成果を2025年10月1日の『PNAS』誌で発表しました。

この研究は、試験管内での小胞再構成と定量質量分析を統合し、「アダプタータンパク質(AP: adaptor protein)」複合体であるAP-1およびAP-4によって仲介される輸送カーゴを体系的に特定したものです。また、AP-4を介した小胞輸送に関与する重要な細胞質制御因子も明らかにしました。オープンアクセス論文のタイトルは「Uncovering Cargo Clients and Accessory Factors of AP-1 and AP-4 Through Vesicle Proteomics(小胞プロテオミクスによるAP-1およびAP-4のカーゴクライアントとアクセサリー因子の解明)」です。

分泌経路の中で、「トランスゴルジ網(TGN: trans-Golgi network)」は、タンパク質を輸送小胞へと正確にパッケージングする中央仕分けハブとして機能しています。仕分けにエラーが生じると、積み荷は正しい目的地に届かず、細胞極性や免疫機能、その他の生理学的プロセスに欠陥が生じます。

TGNでのタンパク質選別に深く関わっているのが、AP複合体であるAP-1とAP-4です。これらの遺伝子の変異は、いくつかのヒト疾患と密接に関連しています。例えば、AP1S1遺伝子(AP-1のσ1サブユニットをコードする)の変異はMEDNIK症候群に関連し、AP1S2遺伝子の変異はX連鎖性知的障害を引き起こす可能性があります。また、AP-4サブユニットのいずれかの変異は、「AP-4欠損症候群」と呼ばれる複雑な遺伝性痙性対麻痺(けいせいついまひ)を引き起こします。

したがって、AP-1とAP-4が何を運んでいるのか(カーゴクライアント)を特定することは、それらの生理学的および病理学的な役割を理解するために極めて重要です。しかし、それらが仲介するカーゴや補因子の全容は不明なままでした。特に、AP-4を介したTGNからの搬出はクラスリン(被覆タンパク質の一種)に依存しないようであり、小胞形成にはまだ特定されていないアクセサリー因子が必要である可能性が示唆されていました。

本研究でグオ博士のチームは、AP1γ1またはAP4εのノックアウト細胞、単離した小胞画分を用いた小胞形成アッセイを行い、定量質量分析によるプロテオーム解析を実施しました。このアプローチにより、TGNから搬出されるAP-1およびAP-4依存性のカーゴタンパク質や、AP-4を介した輸送に必要な重要な細胞質アクセサリー因子を特定することができました。

その後の生化学的検証により、CAB45というタンパク質がAP-1依存性のカーゴであること、そして「アンジオテンシンIIタイプI受容体関連タンパク質(ATRAP: angiotensin II type I receptor–associated protein)」がAP-4依存性のカーゴであることが明らかになりました。注目すべきは、AP-4がATRAPの細胞質末端にあるチロシンベースのモチーフを認識し、ゴルジ体からの輸送小胞への積み込みを仲介している点です。

また、WDR44とPRRC1という細胞質タンパク質が、AP-4を介したカーゴの選別に重要な役割を果たしていることも判明しました。WDR44のレベルを低下させると、AP-4のカーゴであるATG9Aがゴルジ体に異常に蓄積しました。同様に、PRRC1をノックアウトすると、ATG9Aが小胞体に留まってしまい、細胞のオートファジー(自食作用)機能が損なわれました。別のAP-4カーゴであるATRAPも、これらの条件下ではゴルジ体に蓄積しました。

「これらの結果は、分泌輸送におけるAP-1とAP-4の機能に対する理解を深めるだけでなく、特定のアクセサリー因子のメカニズムを体系的に解明するための強力な方法論的ツールキットを提供するものです」とグオ博士は述べています。

本研究の共同責任著者はHKUSTのグオ博士とPolyUのヤオ博士であり、HKUSTのポスドク研究員であるジチン・ポン(Ziqing Peng)博士が筆頭著者を務めました。

写真:ユーソン・グオ博士(Yusong Guo, PhD)(前列右から2番目)と彼の研究チーム(Credit: HKUST)

[News release] [PNAS article]

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