私たちの体の中をパトロールする免疫細胞。彼らがどのようにして血管を抜け出し、目的地へと移動するのか、その驚きの仕組みが明らかになりました。鍵を握るのは、細胞の表面を覆う「砂糖のコーティング」です。この発見が、乾癬(かんせん)などの炎症性疾患の治療にどのような希望をもたらすのか、最新の研究結果を紐解いていきましょう。
免疫細胞がまとう「砂糖の衣」が乾癬の炎症を左右する:最新研究で判明
乾癬(かんせん)などの炎症性疾患において、糖鎖(glycans: sugars)と呼ばれる糖分子が、免疫細胞の皮膚への移動をどのように助けているのか。その理解を更新する新たな研究成果が発表されました。
この論文「Leukocytes Have a Heparan Sulfate Glycocalyx That Regulates Recruitment During Psoriasis-Like Skin Inflammation(白血球は乾癬様の皮膚炎症における細胞動員を調節するヘパラン硫酸糖衣を有している)」は、2025年11月4日付の学術誌『Science Signaling』の表紙を飾りました。シニアオーサー(責任著者)は、ランカスター大学のエイミー・サンダース博士(Amy Saunders, PhD)とマンチェスター大学のダグラス・ダイヤー博士(Douglas Dyer, PhD)が務め、両博士が共同で指導した当時博士課程の学生、メーガン・プリーストリー博士(Megan Priestley, PhD)(現在はマサチューセッツ工科大学(MIT: Massachusetts Institute of Technology)所属)が筆頭著者として名を連ねています。
細胞を包む「糖衣」の役割
私たちの体の細胞、特に血管の壁を覆っている細胞は、糖衣(glycocalyx)と呼ばれる厚い層でコーティングされています。これは細胞膜の外側にある、複雑な糖分子でできたジェル状の層のことです。糖衣は、血管壁を物理的・化学的な損傷から守るなど、多くの役割を担っています。そして近年、この糖衣が「免疫細胞が体内をどのように移動するか」を制御する役割も果たしていることが分かってきました。
従来の常識を覆す発見
これまでの研究では、免疫細胞が血管から組織へと移動するのを助けるために、血管壁側の糖衣層が変化すると考えられてきました。しかし今回の研究により、免疫細胞自身も表面に独自の糖衣を持っており、炎症性の皮膚疾患の際にはこの層を脱ぎ捨てる(シェディング)ことで、血液中から組織への移動を容易にしていることが突き止められました。
この糖衣のシェディング(脱落)は、炎症に対する重要な反応です。これにより血液中から組織への免疫細胞の移動が促進されますが、これは感染症と戦う上で極めて重要なプロセスです。一方で、免疫細胞が集まりすぎることは、皮膚に影響を及ぼす乾癬のような炎症性疾患を引き起こす原因となり、体に害を及ぼすこともあります。
研究者たちの想い
今回の発見について、サンダース博士は次のように述べています。 「免疫細胞上の糖衣層がいかに重要であるかを発見できたことは、本当にエキサイティングなことです。この研究が、将来の炎症性疾患治療の進歩に向けた土台となることを願っています」
また、ダイヤー博士は次のように語ります。 「このプロジェクトで共同研究を行い、免疫細胞の動員に関する理解を再定義できたことは大きな喜びです。これにより、炎症性疾患のより良い治療法の開発を目指します」
筆頭著者のプリーストリー博士は、次のように付け加えました。 「博士課程でこのプロジェクトに取り組めたのは本当に楽しかったです。この研究を通じて、免疫系における『糖』の重要性にもっと注目が集まることを期待しています」
この研究チームには、マンチェスター大学(以前はVIB-KUルーヴェンに所属)のマックス・ノビス博士(Max Nobis, PhD)や、ニュージーランドのヴィクトリア大学ウェリントンのオルガ・ズブコワ教授(Olga Zubkova)も参加しました。
未来の治療への展望
血液と組織の間での免疫細胞の移動を調節する薬剤を設計することは、感染症と炎症性疾患の両方を治療するための潜在的なアプローチとなります。したがって、今回の研究は、免疫細胞の組織への移動を標的とした新薬開発の手法に大きな変化をもたらす可能性があります。
本研究は、主にウェルカム・トラスト(The Wellcome Trust)と王立協会(Royal Society)からの資金提供を受けて実施されました。

